おもひで日記 あるいは blueな私信

23歳のとき、ちょっと新しいキャラの男に出会ってしまい、恋に落ちた。男には、遠距離の彼女がいた。かわいくて、おしゃれで、スタイルも良くて、でも笑いもとれて、強そうなのに、そばにいてあげたくなるような、ステキ彼女。遠距離だろうが、長距離だろうが、そんな彼女がいれば十分なはずなのに、いつの間にか、私は、その男の秘密の彼女になってしまった。
最初の2年、彼女はまだ学生で、来れば長く居るけれど、時々しか来なかった。その後、社会人になって、距離は中距離になった。隔週末・年末年始・お盆とゴールデンウィーク、それ以外は、ほとんど毎日ずっと一緒に居た。男の友達は、みんな口が堅く、何も言わずに、私を輪の中に入れてくれた。一緒に居るときに、彼女から電話がかかると、私は、口を閉じた。男の友達は、気を遣って話しかけてくれた。彼女は、彼女。私は、秘密の彼女。電話に出ないときは、すぐにあきらめる。「来るから」と言われたら、家に行かない。そして、年明けは1月4日、クリスマスは12月23日。
はじめの頃こそ、「別れるつもりなんだ」とか何とか言っていたけれど、そのうち、そんなこと期待もしなくなった。友達には、馬鹿だの阿呆だの散々言われたけど、そんなの聞きゃしないで、「アタシは、『幸せそうに見える恋愛』なんかしたくないの。どんなに不幸そうに見えたって、自分が幸せならいいの。アタシは、あの人にとって、いちばん都合のいい女に自分からなりたいの」なんて言っていた。
3年以上たつと、おかしくなってきた。感覚もおかしいし、感情もおかしい。つねに情緒不安定なのに、幸せそうなふりをしていたら、ついに壊れた。包帯を巻いた手首を見て、男がうそ泣きをしたので、一緒に泣いた。傷口を見せたら、男が笑ったので、一緒に笑った。
最後は、唯一自分だけの日だと思っていた誕生日を、まんまと間違われたので、別れた。あっけなかった。まったく未練はなく、すっぱり。少しして、風のうわさで彼女にもふられたと聞いた。お互い意地になっていただけだと再確認した。もし、彼女と別れたら、終わりにしてもいいな、と私もずっと思っていた。そして、お互いが別れたら、彼女とは、いい友達になれる気がしていた。馬鹿な男の悪口言って、盛り上がれる気がしていた。彼女はずっと知っていた。私が、痕跡を残し続けていたから。当日、家に行かなくたって、合鍵があればいくらでも意地悪ができた。必ず仕返しがあった。交換日記みたいだった。気付いていなかったのは男だけ。馬鹿ばっかり。
忘れたい過去だけど、忘れられない、とずっと思っていたけれど、気がつけば薄れている。傷跡は消えないけど、気にならなくなった。別れて数年は、思い出すだけで吐き気がしていた。でも、もう何年かすれば、完全に思い出さなくなるのかもしれない。あのときの私には、たぶん必要だったんだと思う。勝手なことをすれば、自分に返ってくるとか、意地で恋愛を続けるのはよくないとか、痛い目にあわないとわからない人間は、痛い目に合わされることになっているんだと思う。成長したかどうかはわからないけど、あの経験がなければ、てるおさんに逢わせてはもらえなかったと思うから、これでよかったんだと思う。
でもねー、二股をかける男にろくなやつはいないよ!