13歳
中1のとき、はじめて彼氏ができました。
誤解とか、勘違いとか、部活の先輩のからかいとか、そんなのからはじまった偶然みたいな恋だったけど、今となっては、そうなるようになってたんだとしか思えない。
彼は、いわゆるネグレクトで、いつもおなかをすかせてた。
だから(と言ってはいけないのかもしれないけど)、いたずら心からの万引きだけじゃなくて、本気で窃盗とか車場荒らしとかもしていて、何度も捕まってた。
当然、まわりのおとなからは付き合いを禁止されたけど、わたしは納得できなかった。
好きだからいっしょにいたいし、好きな人が困ってるんだから助けたいって、当たり前に思っていたけど、おとなだけじゃなくて、友達にも、関わらないほうがいいとずっと言われてた。
理解できなかった。
いつか、グループで捕まったときに、彼のポケットの中から、わたしが書いたメモのような手紙が出てきて、わたしの名前が書いてあったから、警察がわたしも仲間でいつもは一緒なんじゃないかと疑って、彼にいろいろきいたけど、「こいつは、関係ないから」って、なにも答えなかったって友達に聞いた。
わたしのことは絶対に誘わなかった。
そのことで、担任に、そのグループにいる女にわたしが嫉妬していてみっともないみたいなことを言われて、腹が立って、おもいっきりビンタしてやったことがあった。職員室に呼ばれたけど、結局、担任のほうがわたしに謝った。そんなこともあったなぁ。先生、あのときはごめんなさい。
会うのは、わたしの家か学校だけで、だんだん会うのも減ってきたけど、試験勉強をいっしょにしたりもした。
そのうち、学校にもまともに来なくなってしまい、電話をしてもつながらなくて、ある日、やっと久しぶりに話せた日に「別れよう」と言われた。
秋だった気がする。運動会は来てたっけ。文化祭では、いっしょに合唱したような。でも、その頃は、話せなかったような。記憶が薄い。ぬけがらのようだったもんな。
そして、冬になって、なにかあったのか、またちょこちょこ学校に来るようになった。
あるとき授業中に、手紙が回ってきた。
「まじめになるから、もう一回つきあってください」
きったない字だった。
でも、これでもう大丈夫だって思った。世の中ぜんぶ薔薇色に見えて、なにもかもが完璧になっていくような気がして、嬉しくて、授業を受けながらボロボロ泣いた。
2月16日は、彼の誕生日だった。バレンタインもある。プレゼントとチョコを用意してたけど、彼はまた学校に来なくなった。
2月も終わりに近づいたころ、施設に入れられたと聞かされた。
わたしだけ知らなかった。
14歳になったら、少年刑務所に入れられるから、そのまえに、と、母親が頼んだらしいって噂だった。
もう、まじめになるって決めてたのに。
助けられなかった。
みんながこれでよかったって言ってきた。
誰にもわかってもらえなかった。
すぐに忘れるし、そのほうがいいって。
保健室の先生だけ、ちゃんと話を聞いてくれた。
保健室に行っては、会いたいと泣いてた。苦しくて、しかたがなかった。
手紙を書いた。
どこの何ていう施設なのか、誰に聞いても教えてくれなかったから、先生に預けた。
「送っておくね」と言ってくれた*1。
そのころ、うちにはいちばん下の妹が産まれたばかりだった。
中2になって、クラスも変わり、妹のおかげもあって、新しい毎日で、さみしさを紛らした。
中学生の恋愛なんて、たいしたことじゃないって、みんな思ってたんだろう。本気で。
*1:結局、卒業式の日に、卒業祝いのプレゼントといっしょに、わたしに返してくれた。「ごめんね」と。先生の優しさが苦しいほどだったな。